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キャンパスライフ

教員のエッセイ

「銀行口座と犯罪資金規制」

 以前に暮らしていたなど慣れている人以外、外国に住むというのは大なり小なり戸惑いがあり、その国のシステムを理解するまでに時間がかかるものではないでしょうか。

 ここでは、私が感じたそんな戸惑いと、ちょっと大げさですがそれがどのように国際問題と関係しているかを考えてみたいと思います。


 皆さん、ガス水道電気電話などの支払はどのように支払ってらっしゃいますか?銀行口座から引落という方が多いのではないでしょうか。そうでなければ集金、最近はクレジットカードからの引落(その場合も銀行引落になりますが)もありますね。

 英国でも、銀行口座からの引落が一般的なようですが、郵便局での支払も可能ですし、小切手をきってそれを送るという方法もあります。銀行口座からの引落ですと、支払が確実なせいか料金の割引制度を適用できるものもあります。

 いずれにしても忙しい現代社会、いちいち料金支払いのために郵便局に行ったり、小切手をきって送ったりしてはいられないし、第一、毎月のこと、うっかり忘れてしまうことを考えると銀行口座からの引落が一番手間がかからず便利ね、と考える人が多いのもうなずけるところです。

 私も光熱費、家賃、住民税などの引落のため、まずは銀行口座を開設!と思ったのですが、ところが、これがなかなかうまくいきません。私の友人の中には、10年ほど前に英国で1年間ほど暮らし、昨年また英国にやってきた人がいますが、彼は10年前に口座をもった銀行に3回も足を運び、ようやく口座を開設することができた、と言ってました。それも、前に口座をもっていたことであるし、というので、支店長の裁量で特別に許可されたんだとか。

 もう一人の友人は、口座開設には保証人が必要であると言われ、彼はflat(日本のアパートにあたります)を借りるにあたってすでに英国在住の友人に保証人になってもらっていたので(私もflatを借りる時英国人の友だちに保証人になってもらいました)、これ以上お願いはできない、ということでいまだに銀行口座を開設していないそうです。

 もちろん、日本の企業から派遣された方などは、こちらに給料の振込口座をつくることになるでしょうから、銀行も問題なく口座を開設してくれると思います。しかしながら、私たちのような留学となると簡単にいかないのが実情のようです。

 では、私の友人のように10年前にはすぐに銀行口座をもてたのに、今はだめなのはなぜでしょう?なぜだと思われますか?


イギリスの銀行

英国の銀行はちょっと見ただけでは銀行かどうかわかりづらいので看板を見て判断するしかありません。ただその看板にもBankの文字はないところがほとんどなので、銀行の名前を知ってないとなかなかみつからないなんてことになります


 アメリカでおこった9.11テロを引くまでもなく、今のテロは非常に組織だっており、その組織の資金力も大きなものになっています。そこで、当然そうした資金を絶つというのは重要な国際問題となっており、国連ではテロへの資金供与を禁止する決議がだされたり、また1999年には条約(International Convention for the suppression of the financing of terrorism)ができています。

 こうした国連での議論を経て加盟国の中では、具体的に国内にテロ組織の資金が保管されたりすることのないような措置をとる国が、とりわけ先進国において増えています。

 それに加えてマフィアなどによるマネーロンダリング(麻薬などで不正に得た金を金融機関に入金したり外国に送金したりして出所を隠すこと)が大きな社会問題となっており、その阻止のため上記のような厳しい措置をとっているようです。

 例えば、英国では、そうしたテロ組織やマフィアの資金のための銀行口座が開設されたとわかった場合には、その口座を開くことを了承した窓口の銀行員も処罰の対象となるのです。 たとえ、銀行員がそういった組織の資金だということを知らなかったとしても。

 ですから、銀行口座の開設というのはとても難しくなっています。


 また、こんなことも聞きました。

 私の友人の一人にロンドンで弁護士をしている人がいますが、彼女のところには時々あやしいメールが届くそうです。それは、


 英国に来ようと思っているが、銀行口座を開くことができないので大変困っている、(以下困っている状況を面々と訴える文)、ついては貴方の名義で口座を開設してもらえないか、そこにお金を○○m£(100万£でだいたい2億円ぐらいです)振り込むから。


 こうした依頼はすぐに届け出なければならないことになっていますので、彼女は自分の所属する弁護士事務所の担当員にそれをすぐに転送し、届け出の手続きをとってもらっているそうです。

 このように犯罪規制の関係で口座開設が難しくなってきているといわれてますが、実は、破産する人、借り逃げの人が多くなっているのも原因じゃないかと私は思っています。


古い町並みがそのまま利用されています。<br>チューダー朝(風)建物の中にテナントとして自動車販売の店舗が入ってます

古い町並みがそのまま利用されています。
チューダー朝(風)建物の中にテナントとして自動車販売の店舗が入ってます


 こちらの銀行では、普通預金(といっても利率3%、4%は当たり前です)と利率の低い当座預金があります。日本の当座預金というとだいたいが会社経営をしている人だけに関係するものですが、こちらでは一般の人も当座預金の口座を持っています。

 この当座預金を開設すると小切手帳がもらえ、支払に使えます。もちろん各種料金の銀行口座からの引落もできます。日本の場合、小切手をきってそれが回ってきたときに当座の残額が足りないと不渡りになり、大変なことになりますが、こちらはその分を銀行が貸しておいてくれます。もちろん借りた分については利息を支払わなければなりませんが。

 日本では普通預金が定期預金といっしょになったものがあり、普通預金の残高が足りない場合には定期預金の残高の90%までは銀行から借りることができるシステムになってます。この場合は定期預金が担保となっていることになるのですが、英国ではいわば担保なしに銀行からの借入が可能となっているのです。

 このため、小切手をきりすぎて(きった小切手の支払分だけでなく、残高不足の場合には銀行から借入した分の利息も払わなければなりませんから)払えなくなるという人も実際には多いのです。

 ですから、単に犯罪組織の資金規制ということからだけではなく、銀行自体の自衛のためにも口座開設の審査が厳しくなっているのではないか、と私は思っているのですが、皆さんはどう思われますか。


 最後に蛇足ですが、こちらの銀行員は日本の銀行員がするようにお札を扇のように開いて数えるってことはないみたいです。 あれは、日本だけの技なんでしょうか? それとも私の行った銀行の窓口でしてないだけで一般的には全世界共通でできるんでしょうか???