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研究活動

最近の研究から

次世代燃料を利用するクリーンディーゼルの研究

段   智久   准教授

Keywords: 石油代替燃料、ジメチルエーテル、バイオ燃料、燃焼改善、低環境負荷

舶用エンジンを取り巻く環境

地球環境保全の観点より、船舶から海洋環境に放出される物質を規制することが必要となっています。船舶は自国内の海域のみならず、公海上を航行して国相互の物流を担っているため、放出の規制は国際的な条約によって行う必要があります。そこで、国際連合の専門組織である国際海事機関(IMO : International Maritime Organization)が主体となって各種委員会を設置し、委員会やその作業部会が開催する会議において排出規制の対象となる物質やその量が検討されています。その中で大気環境の汚染を防止する目的で、船舶で多用されるディーゼルエンジンが排出する物質、いわゆる排ガスを規制することが議論され、酸性雨など環境破壊の要因となる物質として窒素酸化物(NOx)、燃料油中の硫黄含有量を規制することが決定しています。
  このような社会背景を基に、内燃機関工学研究室ではディーゼルエンジンが環境に与える負荷を低減させるための研究を行っています。特に、次世代の石油に替わる燃料によって有害な排気成分を低減しつつ十分にエンジン出力を得るために、種々の燃料について最適な燃焼状況を形成するための基礎的・応用的な研究を実施しています。ここでは、ジメチルエーテルとバイオ燃料に関する研究例を紹介します。

ジメチルエーテルによる噴霧燃焼改善

ジメチルエーテル(DME : Dimethyl Ether)はCH3OCH3で表されるエーテルで、酸素原子に2つのメチル基が結合した物質です。常温常圧では気体の物質で数気圧の加圧で液化し、LPガスに似た性質を持っているため、従来からフロンに替わるスプレー噴射剤として利用されてきました。このDMEを燃料として見た場合、炭素同士の直接結合がなく、また分子中に酸素を含有することから燃焼時にススを発生しにくいという特性があります。また、軽油よりも自発点火しやすいという性質もあります。そこでディーゼルエンジンの代替燃料としてDMEを利用する研究が1990年代頃から始まりました。

本研究では、舶用燃料に液化させたDMEを混合し、ディーゼルエンジンにおける燃料噴霧の微粒化と燃焼状況を改善できないかと試行しています。図1は燃料にDMEを液化状態で混入した後、大気圧雰囲気場に混合燃料を解放した様子です。燃料からDMEが気化して多数の気泡となり表面から蒸発している様子が分かります。



図1 液化DMEを混合した燃料を大気解放した様子


ディーゼルエンジンでは、高温高圧に圧縮された高密度空気中に燃料を噴射し、噴射された燃料が微粒化・蒸発して自発点火に至り、その後に爆発的に燃焼することで熱エネルギーを得ています。この燃料の燃焼プロセスは、燃料の性状や微粒化過程に大きく影響を受けることから、従来から噴霧に関する多くの研究が行われてきました。液化DMEが蒸発しやすいという性質を利用して燃料噴霧の微粒化が改善できると考え、A重油(MDO : Marine Diesel Oil)に液化DMEを混合させる専用の燃料タンクを作製して実験を行いました。

図2は高速度ビデオカメラを用いて1秒間あたり10,000コマの撮影速度(0.1ミリ秒毎の現象を撮影)によって把握した燃料の拡散過程です。上側がA重油のみの噴霧で、下側が液化DMEを混合した燃料の噴霧です。液化DMEを混合した場合には、燃料噴射開始0.2ミリ秒後から噴霧の先端が水平方向に拡大し、その後も水平方向へと燃料が拡散している様相がうかがえます。写真の一番右側の噴霧を比較しても、A重油の噴霧に比較して混合燃料の噴霧の方が水平方向に大きく膨らんだ形状になっていることが確認できます。この噴霧の体積変化を解析すると、混合燃料の場合にはA重油のみの噴霧に比較して3〜5倍の体積になることが分かります。つまり、同程度の燃料量に対して、より多くの空気を取り込んで燃焼を行うことができることを示しています。



図2 大気雰囲気場におけるディーゼル燃料噴霧の拡散状況
(上側:A重油100%、下側:A重油に液化DMEを30%混合した燃料)


この混合燃料をディーゼルエンジンで燃焼させると、ススの排出量を大幅に低減できる結果を得ました。これはDMEが燃焼する際にススを発生しにくいという特徴によりますが、その削減率はDME混合割合以上になることが分かりました。すなわち、上記に示した噴霧の微粒化過程の変化によっても燃焼状況が改善されていることが推測されます。また運転条件にもよりますが、二酸化炭素の排出量も15〜20%程度低減できることが分かりました。これは燃料中の炭素含有量の違いに由来すると考えられ、DMEを利用することでエンジンから排出するGHG(Greenhouse Gas)を抑制できる可能性を示唆するものです。

バイオ燃料のエンジンにおける有効利用

石油の代替燃料として、天然ガス、GTL(Gas To Liquid)、ジメチルエーテルなど様々ある中で、植物燃料(バイオ燃料)に関心が集まっています。バイオ燃料は他の石油代替燃料とは異なり、「カーボンニュートラル(carbon neutral)」という側面を持っています。カーボンニュートラルとは、燃焼によって生じる二酸化炭素は植物の成長過程で光合成により固定した二酸化炭素に由来するもので、新たな二酸化炭素排出源としてバイオ燃料をカウントしないという考え方です。 植物の油脂は、脂肪酸とグリセリンのエステル(グリセライド)からなりますが、この脂肪酸の種類や含有量によってバイオ燃料としての性質が異なってきます。また植物油脂中のグリセリンをアルカリ触媒とアルコールを用いて取り除き、脂肪酸メチルエステル(FAME、Fatty Acid Methyl Ester)を生成します。これをバイオディーゼル(BDF : Bio Diesel Fuel)と呼び、様々な原料からなるBDFが研究されています。

バイオ燃料の大きな問題点は、食物との競合による作物価格の高騰です。バイオ燃料は菜種、とうもろこし、大豆やパーム椰子といった食料として利用される植物の油脂が原料となっているものが少なくありません。そこでバイオ燃料の需要が伸びると食糧のための作物量が減り、結果として価格高騰や絶対量不足といった問題を引き起こします。そこで、食料との競合問題を解決する新たなバイオ燃料としてジャトロファ(Jatropha curcas)種子の油脂が注目されています。ジャトロファは和名をナンヨウアブラギリといい、熱帯アメリカ原産の小高木で世界の熱帯または亜熱帯地域に栽培あるいは半野生状態で広く分布しています。

本研究では生のままのバイオ燃料に従来の軽質な燃料(軽油やA重油)を混合し、エンジンにおける燃焼改善の効果を検証しています。図3はジャトロファ油にA重油を混合し、混合燃料の温度を変化させながら動粘性係数を測定した結果です。で示したジャトロファ油100%の場合は、常温では非常に粘度が高い性質がありますが、A重油を混合することで粘度を下げることができます。で示したA重油を25%混合した場合には、常温の動粘性係数をジャトロファ油100%に比較して1/3程度まで低下できます。



図3 ジャトロファ油とA重油の混合燃料の動粘性係数


また、ジャトロファ油にA重油を混合することで、燃焼状態も改善できます。図4は燃料を噴射するためのノズルを燃焼試験後に観察した写真です。写真の左から右に、ジャトロファ油100%、混合燃料、A重油100%の結果です。燃料はノズル先端部の中央から噴射されますが、ジャトロファ油100%の場合には、噴射出口周辺に燃え残った燃料が炭化して付着している(カーボンデポジット)様子が分かります。混合燃料の場合には、その付着量が大幅に減少して、A重油100%と比較して遜色のない燃焼をしていることがうかがえます。



図4 バイオ燃料とA重油を燃焼させた後の燃料噴射ノズル
(左側:ジャトロファ油100%、中央:混合燃料、右側:A重油100%)


エンジンから排出される二酸化炭素は、この混合燃料を用いた場合には前述のカーボンニュートラルの考え方によって削減されたことになります。つまり、従来燃料にある程度の割合でバイオ燃料を混合して運転して同程度のエンジン性能が得られれば、混合したバイオ燃料の分だけ二酸化炭素を削減したことを意味します。図5はジャトロファの混合率を変化させた混合燃料をディーゼルエンジンで運転した場合の熱効率を算出した結果です。熱効率は、その値が大きいほど燃料が持つエネルギーが効率よくエンジン運転に使用されていることを示す指標です。実験の結果、混合燃料の場合にも従来燃料(A重油)と同等の熱効率が得られることが分かりました。ただし、実際の二酸化炭素削減率は、バイオ燃料を得るまでの過程(作物の耕作、集荷、搾油、製造、輸送など)で必要とした二酸化炭素も考慮に入れる必要があります。



図5 ジャトロファ油とA重油混合燃料の熱効率の比較


関連する最近の研究論文

(1) 液化ジメチルエーテル混合燃料のディーゼル燃焼、日本航海学会誌NAVIGATION、第175号、pp.78-83、(2010.12).

(2) Effects of Combustion and Emission Characteristics in Diesel Engine Operated with DME-Bunker C Blend Fuel (DMEと舶用C重油を混合した燃料がディーゼルエンジンの燃焼特性および排気特性に与える影響)、4th Pan Asian Association of Maritime Engineering Societies (PAAMES) Advanced Maritime Engineering Conference (AMEC) 2010、P003 No.6.2.1、pp.345-350、(2010.12).

(3) Combustion Analysis of the Jatropha Oil in a Pre-Combustion Chamber Type Compression Ignition Engine(予燃焼室式圧縮着火機関におけるジャトロファ油の燃焼解析)、Journal of The Japan Institute of Marine Engineering、Vol.45 Special Issue、pp.50-55、(2010.11).

(4) Combustion Analysis of the Mixed Fuel Comprising of Dimethyl Ether and Marine Diesel Oil -by Diesel Engine with the Lower Nozzle Opening Pressure(ジメチルエーテルとA重油の混合燃料の燃焼解析 -低ノズル開弁圧のディーゼルエンジンの場合-)、8th International Symposium on Marine Engineering (ISME) Busan 2009、(2009.10).

(5) 軽油およびA重油混合によるパーム油の予燃焼室式ディーゼルエンジンにおける燃焼特性、日本マリンエンジニアリング学会誌、Vol.44 No.3、pp.118-124、(2009.5).

(2011.04.18)