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研究活動

最近の研究から

次世代海底探査機の開発支援に関する研究

勝井   辰博   准教授       

Keywords: 海底探査、海底資源、クローラ型ROV、 走行特性

はじめに

図1. クローラ型ROVシステムの概要((独)海洋研究開発機構提供)    地球の約70%をしめる海洋には未開拓の部分がたくさんあります。たとえば海底にはさまざまな資源が手つかずで残されていることが知られていて、その開発に期待がもたれています。また深海底の地殻の構造を知ることは地震のメカニズムの解明がつながる可能性がありますし、深海域の極限環境下での生態系の把握は生物学の発展に寄与するに違いありません。このように広大な海底を調査するためには無人の探査機を用いることが不可欠です。(独)海洋研究開発機構(JAMSTEC)では水深11,000mの深海底で作業が可能なクローラ型の海底探査機(ROV)を開発中です。クローラとはいわゆるキャタピラのことで、ご存じのようにブルドーザーなどに用いられています。陸上では問題なく走行できるクローラですが海底を走行するとなると意外と難しいものなのです。私たちの研究室では、海洋研究開発機構と協力しながら、このクローラ型ROVの開発支援のための研究を実施しています。
   深海域で重作業を行うためには電力供給や制御コマンドの送信が必要であるため、ROVは海上からのケーブルが接続されています。深海域まで到達するためにはそれだけ長いケーブルが必要になり、海底まで下ろしていくのにも困難が伴います。ROVの重量が重すぎるとケーブルに作用する張力が大きくなり、切断などの危険性があることから、ROVの水中での重量はできるだけ軽いことが望ましいとされています。ところが重量を軽くしすぎると海底でのクローラ走行時にROVの前方が持ち上がってしまい、ときには転倒してしまうことが分かっています。このような状態を避けるためには、どのような条件下では安定した走行が可能であるかを明らかにしておく必要があります。これが分かって初めて、ROVの設計が可能となると言えるでしょう。しかし、このような研究はこれまでにはあまり行われてきませんでした。

ROVの通常走行条件

図2. クローラ型ROVの力学モデル   私たちは傾斜した海底を定常走行しているクローラ型ROVの単純な力学モデルを構築し、通常走行(ROVの前方が持ち上がらずクローラが完全に接地した状態で走行すること)のための条件を明らかにしました。このモデルは図2のようにROVに作用する力を重量W、浮力B、垂直抗力N、推進力T、海水から受ける抵抗RW の5つ集中荷重として単純化し、垂直抗力の作用点がクローラ底面の範囲内にある場合は通常走行が可能であると考えるものです。この条件を数式で表すと、(1)式のようになります。 式(1)

図3. 通常走行条件の推定結果と模型実験結果の比較

この条件を模型実験で検証したところ、精度よくROVの通常走行限界を推定できることがわかりました。図3は通常走行するためのROVの重心位置(横軸:xG)と浮力の作用点(縦軸:xB)の関係を示したものです。図中の実線は前進時通常走行限界の(1)式による推定結果で、は模型実験の結果、破線は後進時通常走行限界の推定結果で、は模型実験の結果です。2つの線の間にある時だけ前進時も後進時も通常走行が可能です。これを見てもわかるように推定結果と実験結果はよく一致しています。


ROVの段差踏破条件

海底はいつも平坦であるとは限りません。そこでROVが段差を走行するとき、転倒せずに段差を登りきるための条件についても検討しています。この場合、段差を登るためにクローラの形状は図4に示すように、前方にフリッパークローラと呼ばれる可動式のクローラを備えています。つまりフリッパークローラで段差に乗り上げ、最終的に段差を登り切ろうとするものです。力学モデルについても先ほどと同様にROVに作用する力を集中荷重でモデル化し、ゆっくりと段差を登る時にはこれらがバランスすると考えています(図4参照)。段差走行時は垂直抗力Nと推進力Tの作用点がクローラ後端と段差の角の2点になることが特徴的です。段差走行の場合はこのクローラ後端に作用する垂直抗力NA が段差上を進むにつれて、だんだん小さくなり0になれば、後ろのクローラが浮き上がって段差を登りきることができると考えました。実際にある条件のもとROVの移動距離XA とクローラ後端に作用する垂直抗力NA を計算で求めてみると図5のようになりました。浮力の作用点がROVの後ろのほうにある時はNA は移動距離とともに小さくなって0になる(図5のオレンジ、紫、ピンク)のに対して、浮力の作用点が前のほうにあるとNA は大きくなってやがて解が求められなくなってしまいます(図5の青と緑)。つまり図5の青や緑のような挙動をする場合は段差を登りきれないと予測されます。実際、模型実験を行ってみるとこの予測はぴたりと当たります。 (図6)

図4. 段差走行時のROVの力学モデル

図5. 段差走行時の前進距離とクローラ後端での垂直抗力の関係

図6. 段差走行の模型実験の様子(段差を登りきったとき)

おわりに
   以上のように、陸上と海底では同じクローラでも走行特性が全く違います。これまでに平坦な海底面や単純な段差を走行するときのクローラ型ROVの走行特性を推定する方法を示しましたが、深海底はより複雑な地形をしていて、かつ地質もさまざまです。加えてROVが運動するときに流体(海水)から受ける力はROVの運動性能に大きな影響を与えます。今後これらの問題に取り組んでいきたいと考えています。

関連する最近の研究論文

[1]T. Katsui, M. Akashi, S. Kajikawa, T. Inoue, "The Motion Characteristics of Crawler Driven ROV Moving Over Bumps", Proceedings of ASME2010 30th International Conference on Ocean, Offshore and Arctic Engineering, 2011.

[2]T. Katsui, S. Kajikawa, T. Inoue, "Moving performance of a flipper type crawler driven ROV", Proceedings of the 5th Asia-Pacific Workshop on Marine Hydrodynamics,2010.

[3]T. Katsui, H. Murakami, S. Kajikawa, T. Inoue, "Moving Performance of Crawler Driven ROV on the Inclined Sea Bottom", Proceedings of ASME2010 29th International Conference on Ocean, Offshore and Arctic Engineering, 2010.

[4]T. Inoue, T. Katsui, H. Murakami, J. Tahara, "Research on Stability of Crawler System for Deep Sea ROV", Proceedings of ASME2009 28th International Conference on Ocean, Offshore and Arctic Engineering, 2009.

[5]T. Inoue, T. Katsui, H. Murakami, K. Takagi, "Crawler System for Deep Sea ROVs", Marine Technology Society Journal Volme 43, Number 5, pp.97-104, 2009.

(2011.04.11)