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研究活動

最近の研究から

日本の国際拠点空港/港湾におけるハブ展開に向けた戦略的研究

松本  秀暢   准教授

Keywords: 国際ハブ空港/港湾、国際航空/航路ネットワーク、国際競争、環境制約、アジア地域

国際物流戦略を描く

海事科学とは、“海事”に関わる諸問題について、理工学と社会科学を高度に連携させた学際的な学問領域を指します。海事科学部において、私は社会科学的なアプローチ、とりわけ経済学的な手法を援用しながら、地球規模で展開される効率的な輸送/物流活動を主な研究対象としています。

航空/海運企業による世界的な提携が積極的に進められている現在、国際航空/航路ネットワークの分析、およびそれに伴う国際ハブ空港/港湾の配置問題は、極めて今日的な問題です。アジアの代表的港湾であった神戸や横浜は、現在ではトランシップ貨物が激減し、世界のローカル・ポートに凋落してしまいました。空港に関しても、香港やシンガポール、ソウル/仁川をはじめ、アジア周辺諸国の戦略的な国際物流戦略の影響を受けて、東京/成田の拠点性は次第に低下しています。一方、国際政治/経済のボーダーレス化に伴い、生産の国際分業体制が確立されつつある中で、国際企業のグローバル活動や金融活動の拠点が、東京から香港、上海、シンガポールに流出している現象も起こっています。

アジア地域においては、新空港の建設や既存空港/港湾の拡張が相次いでおり、すでに空港/港湾間競争、およびそれに伴う都市間競争が始まっています。例えば、写真1は最近投入されているエアバスA380ですが、今後、機体の大型化がさらに進行すれば、図1に示されているような空港選択が行われるかも知れません。その一方で、現在では、写真2および写真3のようなLow-cost Carrier(LCC)と呼ばれる低価格航空企業の興隆が顕著であり、いかにこれらの航空企業を誘致するかが、ハブ空港の発展にとっては欠かせない戦略となっています。今後、日本がどのような国際物流戦略を描き、世界、特にアジア地域において、いかに拠点性を維持/確保するかは、極めて喫緊の課題です。

エアバスA380 スーパー・ハブ空港の配置事例(ボーイング社)
写真1  エアバス A380 図1  スーパー・ハブ空港の配置事例
(ボーイング社)(クリックすると拡大します)
ライアン・エア イージー・ジェット
写真2  ライアン ・エア 写真3  イージー・ジェット
現在取り組んでいる研究とその内容

現在までは、以下に挙げる研究に取り組んできました。

1)  空港の整備財源方策、および管理/運営方式に関する研究

2)  空港の混雑問題に関する研究

3)  国際航空貨物とグローバル・ロジスティクスに関する研究

4)  国際航空旅客/貨物流動の分析、および国際航空におけるハブ配置とネットワーク形成に関する研究

5)  航空/空港における国際競争力の評価手法の確立に関する研究

6)  航空旅客の経路選択における推計手法の開発に関する研究

7)  都市交通における自転車利用促進政策に関する研究

例えば、4)の研究では、図 2 で示されたように、ハブ・アンド・スポークシステム(HASS)を類型化し、各々について費用最小化の観点から最適なハブ配置の解を求めることが考えられます。

Single Allocation Model Multiple Allocation Model
① Single Allocation Model ② Multiple Allocation Model
図2  ハブ・アンド・スポークシステム(HASS)

同研究の一環として取り組んだ研究成果を紹介しますと、図3 は国際航空旅客/貨物流動からみたアジア主要都市(空港)の拠点性の時系列変化を示しています。従来から国際貿易の中継地として大きな役割を果たしているシンガポールと世界都市である東京に加え、後背地に中国をもつ香港の拠点性が次第に大きくなっていると同時に、アジア地域におけるハブ化戦略を推進しているソウルの拠点性の上昇が顕著であることが分かります。

旅客 貨物

① 旅客 (クリックすると拡大します) ② 貨物 (クリックすると拡大します)

図3  アジア地域における各パラメーター推定値の時系列変化

しかしながら、東アジア地域において、我が国の国際拠点空港(成田、関西、中部)、および航空企業(日本航空、全日空)の相対的な競争的地位は低下しています。その一方で、首都圏における空港容量の増大や羽田の国際化をはじめ、我が国における国際拠点空港の競争力を向上させる大きな好機が到来しています。同時に、関西圏では、関西3空港(関西、伊丹、神戸)の今後のあり方について、活発な政策論議が展開されています。

現在は、主に5)〜7)の研究に取り組んでいますが、これらの研究の新規性/独創的な特色については、以下の3点に集約されます。第1は、経済学的分析を基調としながらも、他分野(OR、地理学、工学等)で蓄積されたモデルおよび分析手法を融合する学際的な研究である点です。第2 は、航空ネットワーク形成とハブ空港配置問題に取り組む中で、現在まで考慮されてこなかった国際輸送分野における地球温暖化ガス排出等の外部不経済を内生化するところにあります。そして、ヨーロッパ地域およびアジア地域の海外研究者との国際共同研究と位置付けるところに、これらの研究の第3の新規性/独創的な特色があります。これらの研究は、我が国にとって極めて時流に合致した緊急性の高い研究ですが、例えば、以下のようなケースに適用可能です。

Ⅰ. 特定航空企業/アライアンスのネットワーク戦略の変化に伴う、特定航空企業/アライアンスおよび特定空港の市場シェアへの影響の予測

Ⅱ. 競合する航空企業/空港間における航空ネットワーク水準の比較

Ⅲ. 同一航空企業/空港における航空ネットワーク水準の経年的なモニター

ロジスティクスは将来性のある分野−学生へのメッセージ−

私達が日常生活を送る中で、輸送/物流活動は必要不可欠です。現在では、より広範な概念として、“ロジスティクス”という用語も使用されます。例えば、皆さんがコンビニエンス・ストアで購入する飲み物を1つ例に取り上げても、輸送/物流活動が密接に関わっています。あまり目立たない後方支援的な活動ではありますが、これがなければ社会の基盤活動は成立しません。「原材料の調達から生産活動を経て最終消費者に至る」という“一連のモノの流れ”を対象にしたこの学問領域は、社会の至るところで、あらゆる場面で必要とされています。

特に現在では、輸送/物流活動はグローバル化しています。そして、輸送/物流活動に伴う地球温暖化、エネルギー問題、環境汚染が深刻化し、効率的で環境保全的な輸送/物流ネットワークの構築が急務となっています。

海洋ロジスティクス科学科は、海を中核としながらも、陸海空にわたる地球規模の人・もの・情報の流れを考える、先端的な教育/研究を行うところです。ロジスティクスは、限りなく進化を遂げる可能性を秘めた、非常に将来性のある分野です。国際性豊かな神戸大学海事科学部という舞台で、これからのロジスティクスについて、是非、私達と一緒に取り組んでいきましょう。

代表的な研究論文

【著書(共著)】

1)  松本秀暢 [2006], “国際航空貨物とグローバル・ロジスティクス”, 村上英樹・加藤一誠・高橋望・榊原胖夫編著,「航空の経済学」, ミネルヴァ書房, 第9章収録, 181-195.

2)  松本秀暢 [2001], “空港の混雑問題”, 山田浩之編著, 「交通混雑の経済分析」, 勁草書房, 第14章収録, 259-281.

【学術論文(有審査)】

1)  G. Burghouwt, R. Lieshout, J. Veldhuis and H. Matsumoto, “Sleeping Lion is now Awake? The Effects of Resuming International Scheduled Services at Tokyo International Airport on its Hub Competitive Position”, Journal of Transport Geography, Under review.
(ギオーム ブルハウト・ロヒール リスハウト・ヤン フェルトハイス・松本秀暢, “眠れる獅子は目覚めた? 東京国際空港の競争的地位における国際定期便再開の効果”, 「ジャーナル・オブ・トランスポート・ジオグラフィー」, 投稿中.)

2)  R. Lieshout, G. Burghouwt, J. Veldhuis and H. Matsumoto, “The Effects of Korean Air Carriers’ Network Developments on Route Choice Probabilities of Passengers departing from Japan”, Transport Policy, Under review.
(ロヒール リスハウト・ギオーム ブルハウト・ヤン フェルトハイス・松本秀暢, “韓国系航空企業による航空ネットワーク展開が日本出発航空旅客の経路選択率に与える影響”, 「トランスポート・ポリシー」, 投稿中.)

3)  De Wit, J., J. Veldhuis, G. Burghouwt and H. Matsumoto [2009], “The Competitive Position of Primary Airports in the Asia/Pacific Rim”, Pacific Economic Review, 14 (5), 639-650.
(ヤップ ドゥ ウィット・ヤン フェルトハイス・ギオーム ブルハウト・松本秀暢 [2009], “アジア太平洋地域における主要国際空港の競争的地位”, 「パシフィック・エコノミック・レビュー」, 第14巻第5号, 639-650.)

4)  Burghouwt, G., J. G. de Wit, J. Veldhuis and H. Matsumoto [2009], “Air Network Performance and Hub Competitive Position: Evaluation of Primary Airports in East and Southeast Asia”, Journal of Airport Management, 3 (4), 384-400.
(ギオーム ブルハウト・ヤップ ドゥ ウィット・ヤン フェルトハイス・松本秀暢 [2009], “航空ネットワーク・パフォーマンスとハブ空港の競争的地位:東南アジア地域における主要国際空港の評価”, 「ジャーナル・オブ・エアポート・マネージメント」, 第3巻第4号, 384-400.)

5)  ヤン フェルトハイス・ギオーム ブルハウト・ヤップ ドゥ ウィット・松本秀暢 [2008], “日本の主要空港における航空ネットワーク・パフォーマンスの評価−総合的な評価方法の提案と適用−”, 「運輸政策研究」, 第11巻第3号, 2-12.

6)  Matsumoto, H. [2007], “International Air Network Structures and Air Traffic Density of World Cities”, Transportation Research Part E, 43 (3), 269-282.
(松本秀暢 [2007], “国際航空ネットワークの構造と国際航空/貨物流動量からみた世界の主要都市の評価と比較”, 「トランスポーテーション・リサーチ・パートE」, 第43巻第3号, 269-282.)

7)  Matsumoto, H. [2004], “International Urban Systems and Air Passenger and Cargo Flows: Some Calculations”, Journal of Air Transport Management, 10 (4), 239-247.
(松本秀暢 [2004], “国際航空旅客/貨物流動からみた国際的都市システム”, 「ジャーナル・オブ・エア・トランスポート・マネージメント」, 第10巻第4号, 239-247.)


(2010.12.15)