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研究活動

最近の研究から

法で守る海の安全

藤本   昌志   准教授

Keywords:海上交通法、安全管理、水域管理

  日本は、四方を海で囲まれています。そこに暮らすわたしたちは、豊かな海からの漁業資源等多くの恩恵を受けていますが、一方で、日本では天然資源がほとんど産出されないため、衣食住に必要な食料、石油、天然ガス、鉄鋼石、石炭、ウランなどの原材料のほぼ100%近くを海外からの輸入に頼っています。また、日本で原材料を加工し生産した工業製品等を海外に輸出しています。これらの大量の物資の輸送には、ほぼ100%近くは船舶で運送されています。船舶による海上輸送は日本の豊かな生活と産業を支える重要なインフラです。このような船舶による海上輸送における安全を確保することは非常に重要です。私は、法学的見地から船舶による海上輸送の事故を減らし防止することを目指して研究をしています。
研究の経緯
  まず、簡単に海上での交通ルールについて説明します。すべての船舶は、日本の主権のおよぶ海上にあるかぎり、その国籍、所有者、種類、用途、大小等に関係なく、本来同一の法的地位を持っています。一般的に海上での船舶の航行は、どこをどのように航行してもよいのですが、まったくルールがないという状態では、事故や混乱が生じます。そこで、一定のルールが海上の安全を保つ上で必要となります。そのルールは海上における古くからの経験や慣習に基づいて合理的であると認められたルールです。このルールを成文化したものが現在の海上交通法になっています。しかし、ルールが決まっていても事故が発生します。海上における船舶を操縦している人達は、資格を持ったプロであるにもかかわらず、なぜ事故が発生し続け、減少しないのかという疑問が生じます。それらを解明することによって、事故の防止につながる法システム等を研究しています。

研究の経過
(1) 大型船舶と小型船舶との重大海難
 ①平成17年9月28日、北海道納沙布岬南東方沖合において漁船第三新生丸(以下「新生丸」)と貨物船ジムアジア(以下「ジムアジア」)が衝突した。衝突によって新生丸は転覆し、乗組員7名が死亡。
 ②平成20年2月19日には、千葉県野島崎南方沖合において海上自衛隊護衛艦あたご(以下「あたご」)と漁船清徳丸(以下「清徳丸」)が衝突した。この衝突によって清徳丸は船体が二つに分断され、乗組員2名は行方不明となり、のちに死亡認定。

  このように本邦の海域では、大型船舶と小型船舶との重大な海難がしばしば発生しています。あたごと清徳丸の事故は世間の注目を集め、連日メディアでの報道がなされましたが、漁ろう従事者は「イージス艦は船員の熟練度が高く、高性能のレーダーを備えていると思っていたので、漁船とぶつかるなんて信じられない。大きい船がよけてくれないと、漁船は危険で操業できない。」と新聞上で述べています。一方、イージス艦に乗務経験がある元海上自衛隊幹部は「大きな船の方が相手をよけにくいため、関門海峡など狭い所や、船の行き来が過密な海域では小型船に避けてもらうことが多い」と発言し、つまり漁ろう従事者は「大型船が避けてほしい」、対して大型船操船者は「小型船が避けてほしい」と考えていることが示唆されます。


(2) 現行の海上交通法について
 現行の海上交通ルール(海上衝突予防法)における基本的な航法を確認すると、いずれも2船間の相対的な位置関係によってのみ、避ける行動をとる船と進路を譲ってもらえる船の立場が決定します。また、船種による操縦性能の差に応じた航法が規定されています。しかし現行ルールでは、総トン数などの船舶の大きさによる操縦性能の差に着目した航法は存在していません。しかし、表1に示すように小型船舶の主流である漁船は、大型の貨物船と比較すると旋回径が小さく、容易に衝突を回避できることがわります。
表1 各総トン数別での旋回径の例
漁船(19トン)貨物船(498トン)貨物船(1,767トン)
旋回径(m)70200300

(3) いままでの研究で明らかになったこと
  • 海難事例の検討から、大型船舶と小型船舶の操船者の意識にギャップがあり、小型船舶操縦者は衝突に至る最終局まで衝突回避の動作を取らない傾向が明らかにされています。
  • 型経験によって避航判断時機が異なっている。
  • 小型船は慣行よりも直ちに危険を回避しやすい方法を取る傾向がある。
  • 小型船舶と大型船舶に衝突のおそれが発生した場合、大型船舶側には葛藤が生じる傾向がある。
というように船型経験によって避航判断時機および判断が異なることが示唆されています。今までの研究で海上交通における小型船舶と大型船舶の間にはコンフリクトが生じていることが指摘できます。

今後の研究について
  海上交通の基準は法(ルール)ですが、その背景には必ず操船者の心理が働いています。小型船舶の操縦者と大型船舶の操船者の間にはどちらが避けるべきかが常に対立し、トラブルが発生しています。そうした問題を現場調査して、法学的見地からを検討します。
最近の投稿論文と学会発表:
  • 海難事例と小型船舶操縦者の法理解の調査について−小型船舶に対する特別規定等の必要性− 第123回日本航海学会講演会発表(2010)
  • 小型船特別規定の必要性について-海上衝突予防法第15条適用の場合- 日本航海学会論文集120号183−188頁(2009)
  • 水域利用調整における自主ルールの運用について 日本航海学会論文集120号45−50頁(2009)
  • 海上交通行政における規制緩和に関する問題 ―「貨物船R号 貨物船S号衝突事件」を基に 阪大法学第58巻第3・4号 249〜270頁(2008)
  • 沿岸海域や港内の操船における諸問題 日本船舶海洋工学会誌 第20号28〜31頁(2008)
(2010.11.08)