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研究活動

最近の研究から

最先端シミュレーションで津波に備える:海事安全システム学の確立

小林   英一   教授
Keywords: 船舶津波対策; コンピューター・シミュレーション; 船舶安全安心運航; 船舶運動解析; 輸送最適化
海事安全システム学研究室は、外洋や港内を航行する船舶の安全・安心な運航に関する研究に取り組んでいます。高校で学ぶ数学や物理の知識を基礎に、流体力学、制御工学、船舶工学、船体運動力学、リスク解析評価法、海洋波論、など多岐にわたる学問分野を応用し、また数値シミュレーション技術、プログラミング技術、動画表示処理技術などの周辺技術も駆使して幅広く解析・評価を行います。このような取り組みにより直接的に海事分野の安全安心に貢献するとともに、学生にとっては様々な学問・技術を統合したダイナミックなシステム作りを学ぶことができ、これはどのような業種や分野に進んでも、幅広く応用できる素養を身につけることを意味します。
津波が来たときの船舶の挙動解析と評価
四国沖に東西方向に存在する海底下の断層”南海トラフ”ではこれからの30年間の地震の発生確率が50%を超えると見積もられています。これにより大阪湾やその周辺水域では巨大津波が進入してきます。大阪湾には大型のコンテナ船やタンカーが毎日数多く出入りしますが、もしこのような船舶がその津波を受けると、その大きな力により流されてしまい、岸壁にぶつかったり、船同士が衝突することが心配されます。そしてもしこのような事故が起こると、直接的に甚大な被害を与えるだけでなく、港湾機能がマヒするかもしれません。今私たちは、産業や発電のほとんどの原料を外国に依存していますから、その入手経路に被害が及ぶと我々の社会生活が危機的な状況になるといっても過言ではありません。
そのような状況に陥らないため、もしも津波が大阪湾に進入してきたら、船舶や港湾はどうなるのか、そしてどのような対策があるのか、その対策によりどのくらい被害が小さくなるのかなどについてコンピューター・シミュレーションによる評価に取り組んでいます。次に示す図1は一例として津波が来たときに係留されている小型船舶がどのように挙動をするのかを示したもので、係留されている船同士が衝突したり、錨が動いてしまうことがわかりました。
津波来襲を受ける小型船舶の挙動解析概念図
図1 津波来襲を受ける小型船舶の挙動解析概念図
大洋航行の最適化
日本は資源が乏しいため経済の基盤は主として原材料を輸入しそれを加工して海外に輸出することで成り立っています。この原材料の輸入や製品の輸出のほとんどは船舶が担っています。すなわち日本の豊かな生活の源は海上輸送にあるといっても過言ではありません。この船舶が外洋を航行するときは風・波・潮流など様々な外乱を受けながら航行します。時には大波を受けることもあります。このような場合でも安全に船舶を運航するにはどうしたらよいでしょうか? これには事前に様々な状況を想定してコンピュータ上で海上輸送のシミュレーションを行って評価し、受ける外乱が小さくまた安全に荷物が運べるいわゆるリスクの小さい航路、そして環境にやさしい経済的な航路を選びます。これをアドバンスト・ウェザー・ルーティング(advanced weather routing)と呼びます。従来は、単に天候の比較的良い航路をみつけるに留まっていたいわゆるウェザールティングを一歩前進させた画期的な研究に取り組んでいます。次に示す図2はもとの航路よりより経済的な航路を探し出した結果です。
アドバンスト・ウェザー・ルーティングによる最適航路
図2 アドバンスト・ウェザー・ルーティングによる最適航路
航行船舶の安全性評価
船は世界中を駆け巡りますが大海原を走るときは風や波に注意する必要があります。港を目指しだんだん陸地が近づいてくるとほかの船と遭遇することがにわかに増えてきますし狭い水道や水深の浅いところは特に操船に気を遣う場面です。ではどれだけ気をつけたらよいのでしょうか。私たちの研究室ではこのような航行の危険度を数値で表す研究に取り組んでいます。図3はあるコンテナ船の出港時の危険度が時間とともにどのように変化するかを示したものです。桟橋から離れるときとき、ほかの船と遭遇するとき、そして狭い水道を通るときなどが比較的危険度が高いことがわかります。これによって、航行中に危険度がある値より増せば見張りを増やすなど具体的な運航のマニュアル化を進めることができますし、ある水路の危険度が高ければ入ってくる船の数を制限するなど航行管制も円滑に行えます。航海支援設備の導入による危険度減少の推定、新しい港湾建設の際の予想される危険度の推定など応用範囲は極めて広いものです。
コンテナ船の航行危険度指数の時間変化
図3 コンテナ船の航行危険度指数の時間変化
最近の投稿論文と学会発表:
  • 津波による船舶の漂流とその対策に関する基礎研究,航海学会論文集,第114号,pp.157-163(2006年3月)
  • 津波来襲時の船舶避難に関する一検討,日本船舶海洋工学会論文集,第5号,pp.177-182,2007.
  • 津波来襲時のLNG船の避難ガイドラインの検討,第20回海洋工学シンポジウム,2008.
  • Simulation of a large passenger ship evacuation due to tsunami attack, Proceedings of the Eighteenth(2008) International Offshore Conference and Polar Engineering Conference(ISOPE2008), pp551-557, 2008.
  • Evacuation Assessment of a Large Passenger Vessel due to Tsunami Attack, 日本船舶海洋工学会論文集,第8号,pp.205-217,2008.
  • 小型船舶の津波対策に関する研究―係留された複数船舶の運動モデル化,日本船舶海洋工学会講演会論文集,第8号,pp.233-234(2009)
  • 輻輳海域における津波来襲時の海上交通流について,日本船舶海洋工学会講演会論文集,第8号,pp.235-236(2009)
  • 航行中船舶の種々の評価とその最適化による航路選定に関する基礎研究,日本船舶海洋工学会講演会論文集,第8号,pp.213-214(2009)
(2009.7.1)