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研究活動

最近の研究から

究極のクリーンエネルギー水素:その生成・輸送・貯蔵システムの確立

武田   実   教授
Keywords: 超伝導; 極低温科学; 水素エネルギー; クリーンエネルギー; MHD
   一般に物質の温度は、その物質を構成している原子または分子の運動の激しさ(熱運動)に比例します。この温度をどんどん下げていくと、熱運動が鎮まり静寂な世界へと移っていきます。その世界、すなわち極低温の世界では、熱運動にかき乱され埋もれていた物質本来の姿が浮かび上がってきます。極低温の世界で最も興味深い自然現象の中に、「超伝導」(電気抵抗ゼロ)と呼ばれる量子現象があります。私は、この超伝導現象を基礎とした極低温科学技術をいかにして環境低負荷社会実現のために応用するかという研究を行っています。特に、「水素」をキーワードとして、海洋環境・エネルギー問題の解決を目指しています。
これまでの研究の経緯
   私の所属している研究室では、自作したヘリウム液化機(沸点−269℃の液体ヘリウムを製造する機械)を用いて、1970年代より超伝導電磁推進船の研究を行ってきました。この船は、フレミングの左手の法則を応用して、海水に働く電磁力の反作用を利用することにより推進することができます(図1参照)。プロペラがないので振動や騒音が少なく、スピードや推進方向のコントロールが容易で、高速化が可能であるという利点を持っています。この船には、液体ヘリウムで冷却された超伝導磁石(超伝導線をコイル状に巻いて大電流を流すことができる電磁石)が内蔵されており、船底から下部海水方向へ強磁場をかけます。そして、船底に設置された電極を用いて海水に電流を流せば、推進力を得ることができます。総合水槽実験棟で行われた推進実験の知見は、1992年に神戸港内で実証航行実験に成功したYAMATO-1へ結実しました(図2参照)。その後、研究室ではヘリカル型と呼ばれる新型電磁推進の国際共同実験に着手し、1999年にYAMATO-1を遥かに凌ぐ性能を得ることに成功しました。
超伝導電磁推進船の原理図
図1 超伝導電磁推進船の原理図(岩田章・佐治吉郎著「超伝導による電磁推進の科学」より)
海水中に溶けているイオンを通して電流を流し、これと直角方向に磁場をかけると海水に力(ローレンツ磁気力)が働きます。この反作用で船は推進力を得ることができます。

YAMATO-1の写真
図2 YAMATO-1の写真(日本財団提供)
全長約30m、総トン数約280トンのYAMATO-1は、1992年に神戸港内で実証航行実験に成功しました。

海流MHD発電・水素発生を目指して
   ヘリカル型電磁推進では、高い推進力と推進効率を得られることがわかりましたので、逆の原理(フレミングの右手の法則)を応用すれば海流のエネルギーを有効利用できるのではないかと考えました。すなわち、海流MHD(電磁流体力学)発電の着想を得たのです。海流(または潮流)のエネルギーは、季節や天候に左右されないので、再生可能エネルギーとして極めて有効であると考えられます。図3は、新型(ヘリカル型)海流MHD発電実験装置の写真です。ヘリカル型では、同軸電極の方向へ強磁場をかけた状態で、海水が電極の周りを回転運動すると誘導起電力が発生します。これが海水の電気分解電圧を超えれば、海水を通して電流が流れて発電するとともに水素ガスが発生します。これまでに小型のヘリカル型海流MHD発電機・水素発生器を試作し、超伝導強磁場を用いて世界で初めて発電実験に成功しました。現在、発電機・水素発生器の形状の最適化、大型化および実用化を目指して研究を進めています。
ヘリカル型海流MHD発電実験装置
図3 ヘリカル型海流MHD発電実験装置

水素エネルギーを海上輸送するために
   地球温暖化問題を解決するために、太陽光発電、風力発電、水力発電、そして上で述べた海流MHD発電などによる再生可能エネルギー利用技術の開発が本格化しています。このような一次エネルギーは地球全体に豊富に存在しますが、エネルギー密度が小さいため、これを二次エネルギーに変換して消費地まで輸送する必要があります。現在、二次エネルギーの媒体として、環境に優しい水素が注目されています。水素を利用するエネルギーは、反応後に残るのが水だけなので、究極のクリーンエネルギーであると言えます。図4に示すように、水素を大量に輸送・貯蔵するシステムを確立するためには、貯蔵効率の高い液体水素(LH2; 沸点−253℃)を海上輸送する基盤技術の開発が急務となります。ごく最近、液体水素温度で超伝導になる新しい物質(MgB2; 二ホウ化マグネシウム)が発見されており、これを基にして全く新しい超伝導式液面計の開発研究を行っています。さらに、水素エネルギーと超伝導エネルギーの相乗効果を利用した海上輸送基盤技術の開発なども目指しています。
液体水素の海上輸送・貯蔵システムの概念図
図4 液体水素の海上輸送・貯蔵システムの概念図

最近の投稿論文と学会発表:
  • Application of MgB2 Wire to Liquid Hydrogen Level Sensor -External-Heating-Type MgB2 Level Sensor-(MgB2線材の液体水素液面センサーへの応用 -外部加熱型MgB2液面センサー-), IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol. 19 (2009) in press
  • Basic Characteristics of Helical-Type Seawater MHD Power Generator with Flow Rectifiers (整流器を備えたヘリカル型海流MHD発電機の基礎特性), Journal of The Japan Institute of Marine Engineering, Vol. 43, pp. 130-134 (2008)
  • Characteristics of MgB2 Sensor for Detecting Level of Liquid Hydrogen (液体水素液面検知用MgB2センサーの特性), Advances in Cryogenic Engineering, Vol. 53B, pp. 933-939 (2008)
  • Measurements of pressure distribution of helical-type seawater MHD generator (ヘリカル型海流MHD発電機の圧力分布測定), Proceedings of the 3rd PAAMES/AMEC, pp. 69-73 (2008)
  • 液体水素表面の減衰振動, 第78回2008年度春季低温工学・超電導学会講演概要集, p.66.
(2009.5.19)