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キャンパスライフ

教員のエッセイ

「英国鉄道事情」

 英国は世界でもっとも早く鉄道が発達したところだということはご存知の通りですが、それについて1910年にロンドンに渡った大阪朝日新聞の記者長谷川如是閑が以下のように書いています。

「規律があるのやらないのやら、遅いのやら早いのやら、混雑しているのやら整然としているのやら、一向解らないのが倫敦の鉄道の特色だ。要するに日本などでは規則が前に出来て、後から鉄道が発達したから頗る四角四面になっているが、英国では鉄道が前に出来て独りで発達してしまって、後から規則や方(ママ)則が追い懸けても追い附かないという姿だ」
(長谷川如是閑著 『倫敦! 倫敦?』 岩波文庫)

 まさにそうなんです。規則が追い附かなかったので、そのままにされ、そうした鉄道事情に時にあきらめと忍従を強いられ、時に右往左往させられているというのが100年後の今も変わらず続く人々の、とりわけ外国人の姿なのです。


 まず第一に、驚くのは改札のない駅があるということです。こうした改札のない駅はさすがに少なくなっていますが、ユーロスターの発着するロンドンの中でも大きな駅の一つであり、国内に向けた列車のためだけでも19番線ものホームが連なるるWaterloo駅がそれにあたるということは驚きに値するでしょう。もちろんユーロスターは外国行きですので改札はありますが、国内線には改札機もなければ切符切りの駅員さんもいません(画像1)。
 朝夕のラッシュ時にはさすがに人が立っていて切符を確認するということはありますが、それでさえ一人一人の切符を手にとって見るなんてことはせず、乗客は切符をちらりと見せて足早にそこを通り過ぎていくだけです。


 さらに、私の家の最寄り駅にも改札がないので、Waterlooに行く場合には、駅で切符を買ってから目的地の駅を出るまで一度も切符を確認されるということがないということがあります。
 こうなると当然不心得者が出てくるわけで、そのためラッシュ時に人が立って切符の確認をするだけでなく、電車内で検札が行われています。ただし、私の利用する線ではあまり行われておらず、数回しか検札を受けたことがありません。が、その数回の検札のたびに無賃乗車が発覚した人を見ましたのでいかに無賃乗車が多いかわかるというものです。そうした人には当然ペナルティが科せられます。


ホームの入り口
画像1   改札のないホームの入り口
15、16と書いてある表示の間がホームへの入り口

 次に日本と異なることは、電車の発着ホームが決まっていないということです。
 日本では大阪駅の○番線は三宮、姫路、網干方面行き、△番線は京都、草津方面行きと決まっていますよね、こちらではそういうシステムになっていません。毎回電車は違うホームに着くのです。
 だとするとどうやって自分が乗りたい電車のホームがわかるのか、と言えば、駅構内にある掲示板をたよりにするほかないのです。例えば10時22分Waterloo発Ascot行きの電車に乗りたいという場合には画像2のように掲示板をじーっと睨んでいてそこにどのホームから出るのか表示されるのを待っていなければならないのです。


 この掲示板は出発した電車の掲示を消して次々と新しい電車を掲示していきますが、掲示できる電車の数は決まっていますので、何時間もあとの電車のホームを前もって知るなんてことはできません。そして、それを知ることは駅員にもできないことなのです。


 なぜなら、このシステムはあいているホームを利用していくという方式だからです。Waterlooの駅の手前で列車が停まり数分間動かないことがよくありますが、それは多分ホームがあいてないので、別の列車が出てから○番線に入線しろという指令がきているんでしょうね。日本では列車が何のアナウンスもなく数分停まってしまったら何だ何だと不安になりますが、こちらは誰も気にせずただひたすら待っています。


Waterloo駅
画像2   Waterloo駅の電光掲示板とホームの表示が出るのを待つ人々
夕方のラッシュ時には掲示板の前はもっと多くの人で埋まっていて、ある電車のホームが掲示された途端一斉に人々がそのホームに向かって歩き出していく

 このシステムが経験主義に基づいた方式であると言われれば「はぁ、なるほど」と思うのですが、列車の発車時間ギリギリに駅に着いた時には、掲示板まで走っていってホームを確認しまた走ってそのホームに向かわなければならず、日本のように最初から決まっていればホームに猛然とダッシュできるのに、と思ったことが何度もあります。


 とは言っても、列車はよく遅れてきますので、発車時間ギリギリに駅に着いたといってもホームにダッシュする必要がない、ということもよくあります。それどころか、ホームの表示がでてないこともよくあることです。確かに昔に比べると比較的ダイヤ通りに運行がされているようですが、だいたい私の乗る電車は10分遅れて目的地に着きますし、時刻表通りに電車が発着することはあまり期待しない方がいいと今では腹をくくってます。


 たとえばこんなことがありました。
 そもそもその電車は到着が20分ほど遅れていたのですが、支線から本線に合流する直前にアナウンスが入り、その遅れを取り戻すためでしょうか、次の駅には停まるけれどそれ以降は△○駅まで停まらないのでその間の駅で降りる予定の人は次の駅で別の電車に乗り換えろ、というのです。
そして、次の駅で停まった後は△○駅までノンストップ、たまたま私はその△○駅で降りる予定だったのでよかったのですが、それでも時刻表より7分遅れての到着でした。
 他にもいったん電車に乗り込んだもののその電車がキャンセルになって結局次の電車に乗ったという話も聞きますし、地下鉄にいたってはいつもどこかのラインで遅れや運行停止がでていて、ひどい時には夏に1時間何の説明もなしに電車に缶詰(地下鉄には冷房がついてません)という話も聞いたことがあります。
 電車・地下鉄をご利用の際は、早めに駅に行って列車が遅れても気にせず、かつ、列車がキャンセルされた時にはどうするかを考えておかれた方がいいようです。


古い型の電車
画像3   もっとも古い型の電車
この型の電車は、各椅子と椅子との間に出入り口があり、乗客は自分でノブを回してドアを開け、必ず閉めなければならない、という古式ゆかしいタイプ
通常の電車は、開けるのはボタンなどを押すが、閉めるのは自動